先日観に行ったシネマ・コンサートは満員の盛況ぶりでした。いわゆる「完全再現」コンサートというものです。YouTubeなどでは大物アーティストやアイドルグループのライヴを垣間見ますが、ヴォーカルこそ生で歌っているものの、バックの演奏は生演奏ではなくマシン再生したものが多いようです。求められている音は、ストリーミングやCDの「完全再現」なのです。音源にないギターソロを延々と繰り広げるなんてしちゃいけないんです。
ファンは「いつも聴いていたものと違う」ことを嫌うようで、ミュージシャン側もファンの希望に沿ったものを提供しているのだと思います。セットリストもSNSで事前に予習してきていますから。となるとライヴの魅力は、迫力のある音響に加え、舞台演出やダンスパフォーマンス、MCにあるのでしょう。大勢のファンとともに盛り上がることもその醍醐味です。
今年10月11日に山下達郎さんのライヴを観に行きました。御年70歳ではありますが、ハリのある強いヴォイスは3時間通して衰えを知らず、僕としては人生をともにした楽曲の数々を原曲キーそのままで再現してくれたことに感無量でした。バックには腕利きのミュージシャンが顔を揃え、ソロを含めて「CDにはない即興演奏」を聴かせてくれたことが何より楽しく、これだからライヴはいいんだと感じさせてくれました。
山下達郎さんのようなライヴは数少ないと感じています。ジャズ生演奏に至っては、原曲といかに違うアレンジや即興によるソロプレイで曲を聴かせるかが勝負どころなので、「完全再現」には程遠い。演奏する季節やその日の天気、来場したお客様の様子、メンバー同士の呼吸、演奏家本人の調子など毎回違う演奏を提供するシェフの「おまかせ料理」なわけです。
音楽の楽しみ方は人それぞれですが、ぜひとも「おまかせ料理」の楽しみも味わってもらいたいと思いますし、そうした演奏を提供するミュージシャンが今後も活躍できることを祈っています。
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